《つなぐ》第四稿 冒頭

広島のこと

(川のせせらぎ)

(やがて遠くから、鈴の音)

(ヴォカリーズ〜功子ちゃん俳句)


(椅子に座る)


皆様こんばんは

今日はようこそお集まりくださいました

これからのひとときを

皆様とご一緒出来ますことを嬉しく存じます


今年も八月が巡ってきました

あの年の八月も

八月六日も暑い朝でした

いつも通りの朝でした

けれど午前八時十五分

あの爆弾で

すべてが失われました

母は子を呼び

子は母を呼び

多くの命が失われました


それから十年の歳月ののち

一冊の句集が刊行されました

それが 句集『広島』

全国から一万を越える俳句が集まりました

その中から一,五二一句が選ばれ

句集におさめられました


それからおよそ六十年後

当時の刊行委員のお宅から

五百冊の句集『広島』が見つかりました


見つかった句集『広島』は

その後

縁あって

若い世代の俳人に受け継がれました

若者たちは

言葉を尽くし

思いを語りました


今晩お届けしていくのは

句集『広島』におさめられた俳句の数々

あの夏

十六歳で人生が大きく変わった女性の言葉

そして

若者の言葉の数々です


それを伝えるわたしは何者か

いいえ

何者でもありません


(立ち上がる)


わたしは声

ただひとつの声です


(無伴奏アリア「わたしは声」)

わたしは声

わたしは響き

わたしはこだま

埋もれてしまった言葉を

わたしは掘り起こし

風に乗せて

人の世に伝えていきましょう


わたしは声

わたしは響き

わたしはこだま

あの日に失われた言葉と

わたしはもう一度出会いたい

あの日に失われた想いと

わたしはもう一度出会いたい


そして

あなたに出会ってほしい

あの日に失われた言葉と

あの日に失われた想いと


これから届けていくのは

たくさんの

ことば

たくさんの

おもい


あの日から

積み重ねられた

たくさんの

おもい

たくさんの

たくさんの

こころ


わたしは声

わたしは響き

わたしはこだま

さあ 旅を始めましょう

心をつなぐ旅を

始めましょう



(歌い上げた後、静寂。川のせせらぎ)

(鈴の音)


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