広島への道(一.五)

広島のこと

 「里」二月号の包みを開ける。すると、昨年の十一月号、句集『広島』特集頁と同じ、明るい萌黄色が目に飛び込んできた。牙城さんからの言葉が書かれると共に、今夏のモノオペラ《つなぐ》のチラシが折り込まれている。武庫之荘に向けて一礼をする。

 句集『広島』、そして「里」十一月号を底本としたモノオペラ《つなぐ》。本作のリブレット(オペラ台本)制作にあたっては、「里」十一月号に掲載の堀田季何、川嶋ぱんだ、松本薬夏の各氏の文章も取り入れた。また、広島でお会いした伊達みえ子さんが以前に書かれた文章も取り入れている。皆様方には、この場を借りて心からの感謝を伝えたい。本当に、ありがとうございます。誠心誠意、取り組んでまいります。

いまは、ぱんださんが選んでくださった百句に向き合う日々を過ごしている。平日、一日につき一句ずつ曲を制作している。土日祝日は精神の均衡を保つために休養日とさせていただいた。ただ、媒体としての自身を清浄に保っておくことが肝要だと感じて、制作を始めてから自主的な断酒を続けている。先日、遠方に出掛けた時にどうしても日本酒を飲みたくなってしまい、つい一合飲んでしまったが。

 モノオペラ《つなぐ》は、声だけのラジオドラマのような作品だ。筆者がピアノを弾きつつ、朗読し歌唱を続ける。たまに、鈴の音が加わる。一般的な「オペラ」とはだいぶ異なる構成だが、長年共に育ってきた声に全幅の信頼を預けているので、このような思いきった構成にした。

 筆者はソプラノ・ドラマティコという声質で、どうやら世界で見ても希少種らしい。以前にはNYのメトロポリタン歌劇場をはじめとした、国外の歌劇場のスタッフからも身に余る評価をいただいた。だが、日本を離れる気にはさらさらなれず、またぎらついた野心もどうにも持てず、夫とふたりの暮らしに満足している。音楽仲間からはもっと欲を持てと言われるものの、生来の性分はどうしようもないらしい。

 ただ、声を通じて自分という媒体を深め、育ててきただけだ。潜り潜ったその先に、何があるかを探りたかっただけだ。そして見つけたものを、みんなで分け合いたかっただけだ。

そんな「声」にすべてを預けるのが《つなぐ》となった。ただ媒体として、語り部として、楽器として、皆様に伝える役を担わせていただきたいと願う。その役割に応えられる自身であれるよう、日々を過ごしていきたい。

(「里」二千二十三年三月号、ボツ原稿)

コメント

タイトルとURLをコピーしました